店舗向け樹種の選び方|耐久性という基準で絞る
2026.11.01
住宅の一枚板と、店舗の一枚板。選ぶ基準がまったく違います。
住宅では「好きな木目かどうか」が第一でも構いません。しかし店舗では、不特定多数が毎日触れるという前提が先に来ます。
この記事では、熊本で九州各地の銘木を扱う木六竹八が、店舗向けの樹種選定を整理します。

店舗で効く5つの軸
軸1|硬さ(傷の入りにくさ)
最重要です。
住宅なら年間数百回の使用が、店舗では数万回になります。傷の蓄積速度がまったく違います。
一般に、気乾比重が高い樹種ほど硬い傾向があります。
| 樹種 | 気乾比重の目安 | 傷への強さ |
|---|---|---|
| 桐 | 0.2〜0.3 | 非常に弱い |
| 杉 | 0.4前後 | 弱い |
| ヒノキ | 0.4〜0.45 | やや弱い |
| クスノキ | 0.5前後 | 中程度 |
| 朴・桂 | 0.5前後 | 中程度 |
| 栗 | 0.55前後 | やや強い |
| 桜 | 0.55前後 | やや強い |
| ケヤキ | 0.6〜0.7 | 強い |
| 椿 | 0.8前後 | 非常に強い(大径材が少ない) |
軸2|耐水性
飲食店では、水は必ずこぼれます。
- 栗:タンニンを多く含み、水湿に強い。枕木や土台に使われてきた実績
- ヒバ:抗菌性が高く、水回りに強い
- ヒノキ:風呂に使われてきた耐水性
ただし、塗装をすれば多くの樹種で実用上の差は小さくなります。ウレタン仕上げが前提なら、この軸の重みは下がります。
軸3|耐熱性(熱源との距離)
熱源のそばでは、木肌が緻密な樹種のほうが有利です。
- 木肌が緻密:ケヤキ、栗、椿
- やわらかく粗い:杉、桐
ただし、どの樹種でも熱には限界があります。距離と縁取りで守るのが前提です。
軸4|取れる幅
カウンターの奥行、大テーブルの幅。大径木になる樹種でなければ、そもそも取れません。
- 幅が取りやすい:クスノキ、紅椨、杉
- 中程度:ケヤキ、栗
- 幅が取りにくい:桑、椿、朴、桜
「桑で幅90cmのカウンターを」というのは、現実的には非常に難しい。寸法ありきで探すと見つからない樹種があります。
軸5|供給の安定性
複数店舗、あるいは将来の増席を考える場合。
一枚板はすべて一点ものです。同じ材を複数枚揃えることは、基本的にできません。
- 同じ樹種で揃える(色と木目は一枚ごとに違います)
- 同じ丸太から取れた板を探す(枚数に限りがあります)

業態別の推奨
| 業態 | 第一候補 | 理由 |
|---|---|---|
| 寿司 | ヒノキ | 白木の伝統。清潔さの可視化 |
| 日本料理・割烹 | ケヤキ、ヒノキ | 耐久性と格 |
| うなぎ・焼き物 | ケヤキ、栗 | 硬く、油煙が染み込みにくい |
| 天ぷら | ケヤキ、ヒノキ | 熱と油。白木なら削り直し運用が前提 |
| 蕎麦・うどん | ケヤキ、栗 | 回転率に耐える |
| 鉄板焼き・焼肉 | ケヤキ、栗 | 熱源に近い |
| バー・ラウンジ | ケヤキ、紅椨、クスノキ | 深い色、幅 |
| カフェ | ケヤキ、栗、桜 | 使用頻度が高い |
| 旅館ロビー・ホテル | ケヤキ、クスノキ、紅椨 | 幅と存在感 |
| 旅館客室(座卓) | 杉、ヒノキ、ケヤキ | 軽さか耐久性か |
| 料亭・茶室 | ヒノキ、ケヤキ、桑 | 格 |
避けたほうがよい組み合わせ
正直にお伝えします。
桐・杉 × 回転率の高い店
軟らかい樹種を、使用頻度の高い業態で使うと、1年で見た目が変わります。
和の空気を出したいなら、
- ウレタンで保護する
- 傷を味として受け入れる方針を、最初に決める
どちらかを選んでください。中途半端に「傷が気になる」状態が最も不幸です。
白木 × 手入れの体制がない店
寿司店の白木は美しい。しかし、日常の拭き上げと、数年に一度の削り直しが前提です。
この運用が組めないなら、ツヤ消しのウレタンで「白木に近い見た目」をつくるほうが現実的です。
香りの強い樹種 × 香りを大切にする料理
クスノキは樟脳の香りを持ちます。これは大きな魅力ですが、
- 日本料理、寿司のように繊細な香りを扱う業態では、競合する可能性があります
- 香りの強さには個体差があり、時間とともに穏やかになります
必ず実物で確認してください。バーやラウンジ、ロビーのように料理から離れた場所であれば、問題になりにくい傾向があります。

仕上げで軸の重みは変わる
ここが実務の要点です。
ツヤ消しのウレタン仕上げを前提にすると、
- 耐水性の差 → 小さくなる
- 耐汚染性の差 → 小さくなる
- 硬さの差 → 残る(塗膜は凹みを防げません)
- 色・木目の差 → 残る
つまり、塗装で埋められない差は「硬さ」と「表情」です。ここを樹種選定の軸に据えてください。
決める順序
- 業態と使用頻度を確認する
- 必要な寸法(とくに幅)を出す
- その寸法が取れる樹種に絞る
- 硬さで候補を絞る
- 色・木目の好みで最終決定する
- 実物を見る
3番が効きます。幅の要求が厳しいと、その時点で候補は数種類に絞られます。
まとめ
- 店舗の樹種選定は硬さ・耐水・耐熱・幅・供給の5軸
- 最重要は硬さ。ケヤキが第一候補になりやすい
- 幅の要求が厳しいと、候補は大径木の樹種に絞られる
- 一枚板は一点もの。複数枚の統一は難しい
- 軟らかい樹種×高回転は方針を先に決める
- 白木は運用体制が前提
- クスノキの香りは業態によって判断が分かれる
- ウレタン仕上げなら、塗装で埋められない差は硬さと表情
業態と必要寸法をお知らせいただければ、現実的な候補をご提案します。
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