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千四百年もの間、熊本の坂本村で悠然と立ち続けてきた一本の杉。その姿は風雨に耐え、季節の移ろいを見守りながら、神秘的な存在感を放っていました。百済の文献にも名を残すこの杉は、地域の象徴として愛され、長い歴史を語る語り部のような存在でした。

しかし、年月を経て老朽化が進み、ある日、村の人々はこの木が倒れる危険に気づきます。そのまま放置するわけにはいかず、慎重に議論が重ねられました。天然記念物として守られてきたこの杉は、本来なら伐採が許されない存在です。しかし、安全を最優先に考えた結果、文化財保護法に基づき登録を解除し、切り倒すことが決定されました。それは、この木の歴史と魂を次の形で生かすための選択でもありました。

伐採された杉は、すぐに使われることはなく、三十年の歳月をかけて乾燥させることになりました。この長い期間は、木が新たな命を吹き込まれる準備の時。千四百年もの間、風雨や陽光を受けながら地域を見守り続けた木材は、乾燥の過程でさらにその美しさと力強さを深めていきました。

乾燥を終えた杉の木材には、見事な木目が浮かび上がり、長い歴史を物語る重厚感が感じられます。この木材は、霊性と豊かなエネルギーを宿し、家具や建築素材として新たな役割を果たす準備を整えました。ただの木材ではなく、使われる空間に特別な趣をもたらす存在として生まれ変わろうとしています。

この杉を手にする人は、その深みと重みを感じることでしょう。千四百年の時を超えて生き続けてきたこの木は、自然と歴史、人々の想いが融合した特別な存在です。迎え入れた場所に新しい物語を紡ぎ出し、未来へと繋ぐ架け橋となるに違いありません。この木は、生命と歴史の奇跡そのものとして、新たな息吹を宿していきます。