店舗の原状回復と造作家具|一枚板は次の店に持っていけるか
2026.10.27
テナントで店舗を構えるとき、契約書に必ず書かれているのが原状回復義務です。
退去時に、借りたときの状態に戻す。この義務があるために、内装への投資は「使い捨て」になりがちです。
しかし、一枚板は違う扱いができます。この記事では、熊本で九州各地の銘木を扱う木六竹八が、その考え方を整理します。
なお、賃貸借契約の解釈は個別の契約内容によります。弊社は法的な判断を行う立場にありません。契約に関する判断は、必ず弁護士等の専門家および貸主にご確認ください。

造作と、独立した家具の違い
原状回復において決定的に効くのが、それが「造作」なのか「家具」なのかという区別です。
造作(建物に付加したもの)
- 壁・床・天井に固定されている
- 取り外すと建物を傷める
- 退去時に撤去義務が生じることが多い
- 撤去費用が発生する
独立した家具
- 置いてあるだけ、または軽微な固定
- 取り外しても建物が傷まない
- 持ち出せる
- 撤去費用がかからない
一枚板のカウンターを、どちらとして設計するか。これが、退去時の扱いを分けます。
「持ち出せる」ように設計する
一枚板は、削り直しながら数十年使える素材です。店舗の寿命より、材の寿命のほうが長いことがあります。
だからこそ、移設できる設計にしておく価値があります。
設計上の工夫
- 天板を独立させる。脚や下地に載せ、ボルトで留めるだけの構造にする
- 壁と一体化させない。立ち上がりを壁の仕上げにしない
- 分解できる支持構造にする
- 配線孔や機器の切り欠きを最小限にする(次の店で使いにくくなります)
- 設置時の取り付け記録を残しておく
とくに5番目は見落とされがちですが、数年後に外すとき、どう留めたかを覚えている人はいません。図面と写真を残しておいてください。

契約時に確認すべきこと
店舗を借りる段階で、次を確認しておいてください。
- 原状回復の範囲(スケルトン戻しか、居抜き可か)
- 造作の扱い(残置できるか、買い取ってもらえる可能性はあるか)
- 持ち出せるものの定義
- 契約期間と更新の可否
- 造作物の所有権の帰属
とくに「どこまでが原状回復の対象か」は、契約書の文言によって大きく変わります。弁護士等の専門家に確認してください。
なお、借地借家法には造作買取請求権という制度がありますが、実務上は特約で排除されていることが多いとされます。契約書を確認してください。
居抜きで引き継ぐ場合
逆に、前の店の造作を引き継ぐケースもあります。
このとき、一枚板のカウンターが残っていれば、それは大きな価値です。
- 削り直して仕上げ直せば、新品同様の面が出ます
- 表層0.2〜0.6mmの突板では、これができません
- 一枚板なら、厚みが許すかぎり何度でも削り直せます
「前の店のカウンター」が「自分の店のカウンター」に生まれ変わる。これは一枚板ならではの利点です。
削り直しをご検討の場合は、材の状態を拝見したうえでご相談に応じます。
移設するときの注意点
実際に持ち出す場合の実務です。
搬出経路
搬入できたのだから搬出もできる、とは限りません。
- 内装が変わっている可能性がある
- 什器が増えている
- 搬入時より通路が狭くなっていることがある
搬入時の経路と寸法を記録しておいてください。
重量
奥行70cm×長さ4m×厚7cmのケヤキで、約120〜140kg。搬出には3〜4人以上が必要です。
保管
次の店舗が決まるまで保管する場合、扱いを間違えると反ります。
- 立てかけない(自重でたわみます)
- 床に直置きしない(湿気を吸います)
- ビニールで密閉しない(湿気がこもります)
- 平らな台の上に、同じ厚みの桟を等間隔に入れて水平に置く
- 保管場所は室内。人が快適な環境が最適
詳しくは保管についての記事をご覧ください。
再設置時の調整
新しい店舗では、床の水平、高さ、支持位置が変わります。脚や支持構造は作り直しになることが多いとお考えください。天板は再利用できます。

投資判断としての整理
これらを踏まえると、一枚板への投資は次のように整理できます。
| 項目 | 一般的な内装材 | 一枚板(独立家具として) |
|---|---|---|
| 退去時 | 撤去。費用が発生 | 持ち出せる |
| 再利用 | 困難 | 削り直して再利用可 |
| 経年 | 劣化する | 色が深まる |
| 次の店へ | 引き継げない | 引き継げる |
「この店を閉じたとき、この天板をどうするか」を最初に考えておく。それだけで、同じ投資の意味が変わります。
まとめ
- 原状回復では「造作か、独立家具か」が決定的
- 持ち出せるように設計する(独立支持、壁と一体化させない、切り欠き最小限)
- 取り付け記録(図面・写真)を残す
- 契約時に原状回復の範囲と造作の扱いを確認する
- 居抜きで残っていれば、削り直して再生できる
- 移設時は搬出経路・重量・保管方法に注意
- 一枚板は次の店に引き継げる資産になりうる
移設や削り直しのご相談も承っています。材の状態をお知らせください。
あわせて読みたい:一枚板の保管方法|すぐに使わない場合はどうするか