リピートを生む店内環境|手触りという体験
2026.11.07
なぜ、あの店にまた行きたくなるのか。
料理が美味しいから。それは大前提です。しかし、同じくらい美味しい店は他にもあります。
差がつくのは、言葉にならない部分です。この記事では、熊本で九州各地の銘木を扱う木六竹八が、素材が果たす役割を整理します。

手が触れているものは、意識されない
客は、天板を意識して触っているわけではありません。
しかし、食事のあいだずっと、手首と前腕は天板に触れています。肘を置き、体重をわずかに預けている。
この接触が心地よいか、そうでないか。客は理由を言語化しませんが、体は感じています。
木が持つ温熱特性
無垢の木は、熱を奪いにくい素材です。
金属やガラス、石に触れると冷たく感じます。これは素材が体温を奪うからです。木は、この奪い方が緩やかです。
冬に触れても冷たくない。これは体感として明確な差です。
とくに針葉樹(杉、ヒノキ)は密度が低く、この性質が強い。カウンターに長く座る業態では、これが効きます。
塗装が質感を左右する
ただし、塗膜が厚いと、この感触は薄れます。
業務用途ではウレタン仕上げを推奨していますが、
- オープンポア仕上げ(導管を埋めない)にすると、木肌の凹凸が残る
- ツヤ消しにすると、樹脂的な光沢が抑えられる
耐久性を確保しつつ、質感を残す。この調整は指定可能です。

音という要素
見落とされがちですが、器を置く音も体験の一部です。
- 硬く密度の高い木(ケヤキ):置いたときに硬く、締まった音が出る
- やわらかい木(杉、桐):音を吸う。柔らかい印象
- 石やガラス:硬く高い音
どちらが良いということはありません。ただ、店の性格に合っているかは考える価値があります。
静かな割烹で、器を置くたびに硬い音が響くのがよいのか。賑やかな居酒屋で、音が吸われるのがよいのか。
カウンター越しの店では、この差が空気をつくります。
香りという要素
木は香りを持ちます。
- クスノキ:樟脳の清涼感ある香り。個性が強い
- ヒノキ:清冽で穏やか。「木の香り」として認識されやすい
- ヒバ:強く独特
- 杉:やわらかく甘みのある香り
- ケヤキ、桑、朴、桂:香りは穏やか
ただし、料理の香りと競合する可能性があります。日本料理や寿司のように繊細な香りを扱う業態では、慎重な判断が必要です。
一方、ロビー、ラウンジ、待合のように料理から離れた場所では、香りは大きな魅力になります。
なお、ウレタン塗装をすると香りは大きく抑えられます。
「落ち着く」の正体
客が「落ち着く店」と言うとき、何が起きているのか。
明確な答えはありませんが、要素としては、
- 視界に情報量のある自然物がある(木目、杢)
- 触れているものが冷たくない
- 反射がまぶしくない(ツヤ消し)
- 音が硬すぎない
- 空間の質が一貫している
一つひとつは小さな差です。しかし、1〜2時間の滞在では、積み重なります。

滞在時間と単価
素材が直接、売上を上げるわけではありません。しかし、間接的な経路はあります。
滞在が長くなる
居心地がよければ、客は長く留まります。
- もう一杯注文する
- デザートを頼む
- 追加の一品を頼む
回転型の店では逆効果になりえますが、単価型の店では売上に直結します。
自店がどちらかを、先に決めてください。
再訪の理由になる
「あの店、落ち着くんだよね」
この一言が出る店は、強い。理由が説明できないぶん、他店に真似されません。
経年が味方になる
もう一つ、重要な点があります。
多くの内装は、開店日がピークです。そこから劣化していく。
一枚板は逆です。
- ケヤキは飴色へ
- 栗は渋みのある茶褐色へ
- 桑は黄金色から濃い褐色へ
常連客は、この変化を一緒に見ています。
「昔はもっと明るい色だった」という記憶が、店との関係を深めます。時間が、店の資産になる。
実務としてできること
1. 手が触れる場所に、本物を使う
壁や天井を認定材で抑え、触れる場所に無垢材を置く。これは法規上も合理的な構成です。
2. 質感を残す仕上げを指定する
ツヤ消し、オープンポア。耐久性と質感のバランスを、仕様として指定してください。
3. 素材を語れるようにする
スタッフが一文で言えるようにする。
「このカウンターは、熊本の菊池水源で育った樹齢200年のケヤキです」
知っていることが伝わると、客の見方が変わります。
4. 経年を隠さない
傷や色の変化を、劣化として扱わない。「使い込んだ証」として語る。
まとめ
- 客は天板を意識しないが、体は感じている
- 木は熱を奪いにくい。冬に冷たくない
- 塗装の指定(ツヤ消し・オープンポア)で質感を残せる
- 音と香りも体験の一部。業態によって判断が分かれる
- 居心地は滞在時間を通じて単価に影響しうる
- 経年変化を常連客と共有することが、関係を深める
- 実務は触れる場所に本物を/質感を残す指定/語れるようにする/経年を隠さない
素材の質感についてのご相談を承っています。実物に触れていただくのが最も確実ですので、見学もご検討ください。
あわせて読みたい:業務用途の塗装仕様|ウレタンをどう指定するか