天然記念物だった木が天板になるまで|文化財保護法と安全
2026.10.10
弊社が扱う材のなかに、かつて天然記念物だった木があります。
天然記念物は、本来伐ることのできない存在です。それがなぜ天板になっているのか。この記事では、熊本で九州各地の銘木を扱う木六竹八が、その背景にある制度と判断について整理します。

天然記念物という制度
天然記念物は、文化財保護法に基づいて指定される文化財のひとつです。
動物、植物、地質鉱物などのうち、学術上価値が高く、日本の自然を記念するものが対象になります。巨木や名木は、この植物の部門で指定されることが多くあります。
指定には階層があります。
- 国指定:文部科学大臣が指定。とくに価値の高いものは「特別天然記念物」
- 都道府県指定:各都道府県の条例に基づく
- 市町村指定:各市町村の条例に基づく
原則として、手を加えられない
天然記念物に指定されると、現状を変更することが原則として認められません。
伐採はもちろん、枝を落とすことにも、周囲の環境を変えることにも、許可が必要になります。国指定のものについては、文化庁長官の許可が要ります。
それだけ強く守られているということです。
では、なぜ伐られることがあるのか
例外は、限られています。
倒木の危険
樹齢を重ねた巨木は、内部に空洞ができたり、根が弱ったりします。
巨木の多くは、神社の境内や公園、道路沿いなど、人が近づく場所に立っています。倒れれば人命に関わります。
台風・落雷などの被害
九州は台風の通り道です。幹が裂ける、大枝が折れる、根返りする。そのままにできない状態になることがあります。
枯損
病害虫や環境の変化で、木が枯れてしまうことがあります。
判断はどう行われるか
こうした場合、簡単に結論が出るわけではありません。
樹木医による診断
まず、樹木医による診断が行われるのが一般的です。
- 幹の内部に空洞がないか(打診や機器による調査)
- 腐朽がどこまで進んでいるか
- 根の状態はどうか
- 治療によって回復の見込みがあるか
保全の努力
診断の結果、まずは治療と保全が試みられます。支柱を立てる、枝を落として重心を下げる、土壌を改良する、周囲を立ち入り禁止にする。
伐採は、最後の手段です。
指定の解除
それでも危険が避けられないと判断されたとき、指定を解除したうえで伐採するという手続きが取られます。
これは行政的な手続きであると同時に、地域にとって重い決断です。何世代も守ってきた木を手放すということですから。

伐られたあと、木はどうなるか
ここからが、私たちの仕事に関わる部分です。
伐採された木は、多くの場合、そのまま朽ちるに任せられるわけではありません。
- 社殿や鳥居の修復材として使われる
- お守りや神具に加工される
- 記念碑として現地に残される
- 材として、次の役目を与えられる
木の命を終わらせるのではなく、形を変えて続けさせる。これは日本の木の文化に深く根づいた考え方です。
弊社が扱う、樹齢1400年の杉
弊社が扱う材のなかに、熊本県八代の坂本村で千四百年立ち続けた杉があります。
百済の文献にも名を残したと伝えられる、地域の象徴でした。天然記念物として守られてきました。
しかし年月を経て老朽化が進み、倒木の危険に気づいた村の人々のあいだで、慎重に議論が重ねられました。そして安全を最優先に考えた結果、文化財保護法に基づいて登録を解除し、切り倒すことが決定されました。
伐採後、この杉は三十年の歳月をかけて乾燥させています。
この材を扱う責任
天然記念物だった木を材として扱うとき、私たちが意識しているのは、その木がここに至るまでの経緯です。
伐りたくて伐られた木ではありません。守りたかったけれど、守りきれなかった。その結果として、いま材としてここにある。
だからこそ、次にこの木を迎える方には、その経緯もお伝えします。樹種と寸法だけの話ではありません。
木六竹八は、7代にわたり木こりを生業としてきた家系です。受け継いできた名木を、次の世代へ渡していく。それが私たちの仕事です。

まとめ
- 天然記念物は文化財保護法に基づく文化財。現状変更は原則として認められない
- 例外は倒木の危険、台風被害、枯損など
- 判断には樹木医の診断と、治療・保全の努力が先立つ
- 伐採は最後の手段
- 伐られた木は、形を変えて命を続けさせる
- 弊社の樹齢1400年の杉は、この経緯を経た材です
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