木の香りの正体|樟脳・ヒノキチオールとは何か
2026.10.08
木の天板を迎えると、部屋の空気が変わります。香りがあるからです。
この香りの正体は何なのか。そして、よく語られる「ヒノキチオール」には、実は大きな誤解があります。
この記事では、熊本で九州各地の銘木を扱う木六竹八が、木の香りについて整理します。

木の香りは「精油」による
木の香りのもとは、精油(せいゆ)と呼ばれる揮発性の成分です。
木は、これらの成分を樹脂や細胞のなかに蓄えています。目的は、主に身を守るためです。
- 腐朽菌や細菌の繁殖を抑える
- 虫を寄せつけない
- 傷ついた部分を保護する
つまり、木の香りとは、木が生き延びるためにつくった物質なのです。動けない生き物が、化学で身を守っている。そう考えると、香りの感じ方が少し変わります。
クスノキの香り|樟脳(しょうのう)
クスノキの香りは、樟脳(カンフル)という成分によるものです。
樟脳は、かつて防虫剤の主成分として広く使われていました。タンスに入れる防虫剤の、あの清涼感のある香り。あれがクスノキの香りです。
日本では、クスノキから樟脳を採る産業が長く続きました。九州は、その主要な産地のひとつでした。
クスノキの天板を削ると、いまでもあの香りが立ちます。天板として仕上げたあともしばらく残り、時間とともに穏やかになっていきます。
香りの強さには個体差があります。香りが苦手な方は、事前にご相談ください。
ヒノキチオールをめぐる大きな誤解
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
「ヒノキチオール」という成分は、日本のヒノキにはほとんど含まれていません。
この成分は、台湾ヒノキから発見されたものです。日本では、青森ヒバ(ヒノキアスナロ)に多く含まれています。
名前に「ヒノキ」と付いているため、日本のヒノキの主成分だと誤解されがちですが、事実は異なります。ヒノキチオールを謳った商品の多くは、実際にはヒバや台湾ヒノキ由来です。
では、日本のヒノキの香りは何か
日本のヒノキの香りは、別の成分群によるものです。α-カジノールをはじめとする複数の精油成分が、あの清冽で穏やかな香りをつくっています。
日本のヒノキの香りが劣るという話ではまったくありません。成分が違うだけです。法隆寺が千年以上建ち続けている事実が、日本のヒノキの実力を証明しています。

フィトンチッドという考え方
森を歩くと気持ちがいい。これを説明する言葉として、フィトンチッドという概念があります。
1930年代に、旧ソ連のトーキン博士が提唱したもので、「植物が放出する揮発性物質」を指します。ギリシャ語の「植物(フィトン)」と「殺す(チッド)」を合わせた造語です。
森林浴の効果を語るときによく使われる言葉ですが、これは特定の物質の名前ではなく、植物由来の揮発成分の総称です。この点は誤解されやすいので、押さえておいてください。
樹種ごとの香りの違い
| 樹種 | 香りの特徴 |
|---|---|
| クスノキ | 樟脳の清涼感のある香り。個性が強い |
| ヒノキ | 清冽で穏やか。もっとも「木の香り」として認識されやすい |
| ヒバ(檜葉) | 強く、独特。水に強い性質と関係する |
| スギ | やわらかく、甘みのある香り |
| ケヤキ | 香りは穏やか。ほとんど気にならない |
| 桑・朴・桂 | 強い香りはない |
広葉樹は一般に香りが穏やかで、針葉樹は強い傾向があります。
香りをどう考えるか
香りを楽しみたい方
クスノキ、ヒノキ、ヒバ、スギ。針葉樹と、クスノキが候補になります。
とくにクスノキは、他では味わえない個性があります。
香りが気になる方
ケヤキ、桑、朴、桂といった広葉樹は、香りがほとんど気になりません。
また、ウレタン塗装をすると香りは大きく抑えられます。オイル仕上げでは、木の香りがそのまま残ります。
香りは時間とともに穏やかになる
どの樹種でも、購入直後がもっとも香ります。数か月から数年かけて、徐々に落ち着いていきます。
削り直すと、香りが戻ります。これも一枚板の面白いところです。

まとめ
- 木の香りは精油成分によるもの。木が身を守るためにつくった物質
- クスノキの香りは樟脳(カンフル)
- ヒノキチオールは日本のヒノキにはほとんど含まれない(台湾ヒノキ・青森ヒバの成分)
- フィトンチッドは特定物質ではなく、植物由来の揮発成分の総称
- 針葉樹は香りが強く、広葉樹は穏やか
- ウレタン塗装で香りは抑えられる。削り直すと戻る
香りについてのご質問も承っています。個体差があるため、気になる方は実物のご見学をおすすめします。
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